ある廃墟の学校に、深夜0時に喫茶店が営業していると噂が広まっていた。

 SNSや動画共有サイトなど、知名度が高い人などが情報発信したことにより数日で知名度があがる。

 どんな時代も心霊系の話題は人気が強く、心霊スポットとして賑わっている。

 廃墟となっている学校は当然入れないように鍵がかかっており、侵入防止フェンスや有刺鉄線の設置など対策をしていた。そんな対策もほとんど効果がなく、荒らされ壊されている状態が続き放置されはじめていた。

 毎晩22時頃まで情報を集めていた吉岡大成よしおかたいせいは、月刊ナイトGOに掲載するため、ネット上で話題になっている、廃墟の学校で営業している喫茶店【夢闇ゆうやみ】と呼ばれる情報を集めていた。

 しかし、人気心霊スポットとなっている場所ではあったが、喫茶店が営業していた、と言う有益な情報な全く得られなかった。動画共有サイトやSNSで発信している人に連絡を取り、直接話を伺ったがどれも聞いた話で本人の実体験ではないものばかり。

 検証動画なども多く出回っており、【撮影成功!】とUPしていた者にも連絡を取ったが捏造だと判明。

 吉岡大成は、【話題沸騰 廃墟に出現する夢闇喫茶の実態】とタイトル以外なにも書かれていないパソコン画面を眺めながらEnterキーをリズムよく叩いている。

「まとめサイトなんかのフィクションネタだったのかねぇ」

 廃墟の学校校門前で車を駐めて、吉岡はカフェオレを飲みながら学校を眺めていた。

 2005年3月5日 時刻は23時40分。

 いつもなら帰宅している時間であったが、月刊ナイトGOの締め切りが迫っていた吉岡は現場検証に来ていた。

【そろそろ目的の場所に向かいますかねぇ」

 車から降りた吉岡は片手にスマートフォンの録画開始ボタンタップして、校門の扉を乗り越えてグラウンドへ侵入。

 身長180cmと高身長な吉岡は、この時だけ身長が高いことに感謝していた。

 

 暗闇が学校を包み込み、視界の悪い状態で歩いていると校舎の入り口まで石畳の道が案内してくれるかのように鮮明に見える。

 歩いている時間はほんの数秒。

 そう、1分も経っていないはずなのに時間の感覚が長い。

 妻からもらったローラー式腕時計の時刻を確認すると同時に、機械音とともに時刻が切り替わる。

 23時51分。

 吉岡が歩いている革靴の乾いた音が響き渡り、校舎の入り口がゆっくりと迫ってくる。

 怖さを抑えるために独り言をつぶやき、大丈夫、入り口にも鍵が掛かっているから入ることはできないはずだ。

 どうせ何も起こらない。

 校門前に車を駐めているから早く戻らなければ。

 さくっと動画を撮影して家に帰ろう。

 校舎の入り口が近づくほどに恐怖が増し、40代になったおじさんでも怖いと足が震えるんだな……そんな事を考えていた。

 校舎入り口前に到着すると、時計の時刻が変わる機械音が鳴り響ぎ時刻を伝える。

 23時54分。

「えーせっかくなので実況風に撮影したいと思います。僕の前にある扉は噂になっている廃墟の学校入り口前です」

「扉に張り紙が張ってありますね……」

 3つの出入り口に張り紙を確認した吉岡は、カメラ機能でズームをして撮影をする。

 立ち入り禁止になっている学校だから当然と言えばそうなのだが、【倒壊の恐れがあるため管理者以外立ち入り禁止】の張り紙が何枚も張り付けられている。

 そんな注意書きも効果を発揮していないのか、複数ある扉のいくつかはスプレーで落書きがされているた。時間にして1分ほど全体を撮影した吉岡は、落書きされていないドアノブを掴むと手前に引く。

 ガチャッと音が響き渡り、鍵が掛かっていることを認識する。

「まぁそうですよね」

「えーここの扉には鍵が掛かっていて、入ることができないようです。あと二つ扉があるので、そちらも確認してみたいと思います」

 23時56分。

 鍵が掛かっていた正面の入り口をあきらめ、バカぁと落書きされている右側の扉を開ける。

 数回手前に引っ張るが、ガチャガチャっと音だけが鳴り響き入ることができない。

 最後に残った扉の前に行くと、一枚だけ違う張り紙を発見する。

「これだけ内容が違いますね。しかもラミネート加工まで……入店前の注意事項……」

 口の中に唾液がたまり、ゴクッツと飲み込み瞳孔が開く。

 ―――入店前の注意事項―――

 ● 入店希望者は時刻が確認できる持ち物があること。

 ● 入店後、必ずメニュー表から1品注文すること。

 ● 入店後、質問には正直に答えること。

 ● 入店後、時…には…守しなければ…い。

 ● 入店後、体験でき…は1……まで。

 ● 入店後、撮…禁…だが…提供なら…る。

「なんだか不思議なことが書いてありますね。一部はスプレーが飛び散ってしまって読めませんけど、だいたい想像できそうですね」

 動画撮影していると言う事もあり、恐怖心がすこし和らいでいる吉岡はラミネート加工された注意事項に向かいお辞儀をすると、【確認させていただきました!】と言った。

 0時00分。

 左腕に着けている時計のローラーが回転すると、機械音とともに時刻が切り替わる。

「本日はご来店頂きまして、誠にありがとうございます」

 頭を下げてお辞儀した状態の吉岡は、頭上から聞こえた男性の声にゾクッツと全身を硬直させる。

 心臓の音、呼吸の音、唾液を飲み込む音がうるさいほどに聞こえ、頭を上げることができない。

「吉岡大成さま?」

 フルネームで自分の名前を呼ばれ、吉岡は勢いよく顔をあげる。

 先ほどまで校舎の入り口に立っていたはずの吉岡だが、そこには真っ暗な空間に一席だけ用意されているテーブルと椅子があった。

 周りを見渡しても暗闇が続き、中央にあるテーブルと椅子だけがはっきりと認識できる状態。

 呼吸と同じタイミングで近づくと、椅子の後ろに気配を感じた。

 操られているかのように進み続ける吉岡は、3メートルほどまで近づくと奇声を上げ尻もちをつく。

 それは、椅子の後ろに浮かぶ頭の存在。

 真っ白な肌に口は耳元まで裂け、真っ黒な眼球がコチラを見つめて笑っている。

 振り子のように頭をゆらし、どうぞこちらへと招く声が響く。

 カツっと革靴の音が響くと、浮いている頭の背後にもう一人誰かいることに気が付く。

 吉岡は小刻みに呼吸を繰り返し、目の前の存在から離れるように這いつくばるように後退する。

「あらあら」

 頭上から聞こえる男性と女性の声が混じるノイズ音。

 這いつくばって逃げる目の前に突如として現れた頭に、喉の痛みを忘れるほど大声をだした。

「あぁぁぁうあぁぁぁ」

「ふふふ、これは失礼いたしました」

 浮いていたはずの頭は、スーツ姿の男性に髪の毛を鷲掴みにされて左右に揺れていた。

「これはただのランプでございます。ふふふ、さぁこちらへどうぞ」

 座り込んでいた吉岡の体が引き寄せられるように立ち上がり、歩いていないはずの体が前へと進む。

 暗闇の中央にある椅子に腰かけると、ふっと体の自由が戻る感覚がした。

 何度か手を握り締める動作を繰り返し、先ほどの得体のしれない頭の光景がフラッシュバックする。

「吉岡大成様、お待ちしておりました。」

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